トルデジアン レポート #10 2nd stage Tor des Geants
トルデジアン レポート #10 2nd stage
2nd stage VALGRISENCHE〜COGNE (53.5km)
タイムチャートはこちら(速い人の参考にはなりません)
足裏の皮膚も戻り、テーピング、ソックスを交換。 パンとエスプレッソを飲み、Valgrisencheのライフベースを後にするのであった。
【Valgrisenche〜Col Fenetre】
事前情報で偶数レグは厳しいと聞いていた。その2nd Stageは3000m級の山を3つ越えていく。
最初に目指すピーク(コル)はCol Fenetre(2854m)。
11.42kmで約1192mをアップする。
ライフベースを出ると、すぐに山への取り付きへ。
漆黒の世界になるのにそう時間はかからなかった。
しだいに雨足は増し、霧が出てくる。
途中、足元が見づらくなってきたため、ヘッデンの電池を交換する。
脇道で急にしゃがみこむと、周りのランナーに心配される。
しばらくすると、山小屋Rif.Chalet de Epeeに到着。
山小屋では、2時間まで仮眠を取れることは聞いていたので、ここで1時間の仮眠を取るつもりでいた。(そのためValgrisencheのライフベースでは仮眠を取らなかった)
山小屋のスタッフに寝させてほしいと伝える。すると、ダメだと言われる・・・
どうやら、山小屋でも仮眠を取れるところと、取れないところがあるようだ。
少しヘコんだが、Rhemes N.D.まで我慢しようと決意。
身体を温めようと、コーヒーとパイのような物を食べる。
すると隣の男性の様子がおかしい!
身体の震えが止まらない・・・と思った瞬間、嘔吐を繰り返す。
周りの者がその選手をエマージェンシーシートで包んでいく。
たぶん低体温症だ・・・
後日談で知ったが、この山に緊急ヘリが到着し、低体温症の男性を保護したようである。
私の横にいた男性かどうかは不明であるが、この辺りから気温がグングン下がっていったことを覚えている。
とりあえず、かなり低温のため、化繊インサレーションをレインウェアの下に着込み出発する。
コース上は川みたいに水浸しになっていた。
もうシューズの中は濡れ、交換したソックスも意味がなかった。
しばらくすると、レインウェアのフードに当たる雨音が、「パチパチ」という音から「サラサラ」という音に変わってくる・・・
足元も薄っすら白色に・・・
最初は「雨は夜更けすぎに〜♪雪へと変わるだろ〜♪Silent Night〜♪,Holy Night〜♪」
なんて感じであったが、次第にそうも言ってられない状況に・・・
コース上の多くはスリッピーな状態であり、何よりトレランシューズでこの山を越えるのは難しいのでは?と感じ始めた。
現に海外の選手はこの状況を予測していたのだろうか、軽アイゼンを装着したり、トレッキングシューズを履いている方もおられた。
実は先ほどの山小屋で、コース上が危険であるということで、一時レースが中断していたようである。
ちょうど私は、レース中断する前に山小屋を出発できたようであった。
足元をしっかり踏み固めながら、やっとの思いでCol Fenetre(60.020km/2854m)に到着。
【Col Fenetre〜Col Entrelor】
Col FenetreからRhemes N.D.まで1116mを下る。
路面は圧雪され滑りやすい状態のため、歩くのも正直怖かった。
しかし、今さら来た道を引き返すこともできない。
意を決して九十九折に延々と下っていく。
この状況を伝えるためにも写真を撮りたかったが、そんな余裕はない・・・
このセクションはまさに「命がけの闘い」であった。
ちなみに明るくなってからはこんな感じ・・・
足を滑らしたら止まるとこがないので、一歩間違えれば下まで滑落する可能性があった・・・
ちなみにばななさんのブログではこんな感じ・・・
(photo by ばななさん) この九十九折を下る。命がけの意味が伝わって頂けるだろうか・・・
この下りで、後続の外人男性(ややメタボ体型)が、寝っ転がって滑り下りてくる。
何となく巻き込まれそうな気がしたので、「先に行ってくれ」のジェスチャーをするが、「オマエが先に行け」のジェスチャーを返される。
仕方なくヨチヨチ歩いていると、後ろから何を喋っているかわからない言葉で(勝手に訳すると「こう下るんだよ!」)、ボブスレーばりに斜面を滑り落ちてくる。
コイツどうやって止まる気やねん!という心配をよそに、右足の踵で地面にブレーキをかけている。
しかし、もちろん止まることはなく、私にダイブしてくる。2人揃って転倒したが、幸い踏み止まり滑落は逃れた。
若干キレ気味だった私に、その男性は「Stand up!Stand up!」と叫び、立ち上がるよう促される。
「オマエがアホなことやっとるからやろ!!」と、怒鳴りつけたい気持ちでいっぱいであったが、そのような単語は思い浮かばず、「うっうぅぅ・・・」という言葉にならない声だけが歯の裏で溶けた・・・
日本に帰ったらECCジュニアに通おう!そう心に誓った・・・
Rhemes N.D.に着く頃には空が白みかけてきた。
振り返ると、とてつもなくデカい山塊の輪郭がみえる。
6時38分Rhemes N.D.到着。
中はとても暖かく、生きて下りることができたことに胸を撫で下ろす。
奥へ入るとリストバンドをチェックされる。
するとスタッフから「レースストップ!ここから先へは進めない」と言われる。
一瞬頭が真っ白になった・・・
「えっ?ここで終了?ウソだろ・・・」
しばらく状況をつかむことができず、呆然と立ち尽くす。
奥の部屋、階段、廊下には何時間も前に到着した選手がたくさん座り込んでいた。
日本人勢もほとんど足止め。
どうやらNさんは3時間待ってたらしい。
座るところを探そうとウロウロしていると、Kさんが到着。
先ほどの下りで足首を捻ったようだ。
色々話をしていると、スタッフがイタリア語で何かを話し始めた。
全く聞き取れないが、選手がゾロゾロと外へ出て行く。
日本人の選手からレースが再開したと知らされる。
何かよくわからないまま、午前7時にレースがリスタートされるのであった。
外に出ると、夜とはうって変わって快晴。
先ほどみた山塊が姿を現す。
朝日に照らされ絶景であった。
やはり陽が昇ると少し足取りが軽くなった気がした・・・
Rhemes N.D.エイドを出ると、すぐに山の取り付きに到着。
ここから先、5.466kmのピーク(コル)Col Entrelorまで1264mアップ。
樹林帯を少し抜けると、すぐに開けた場所にでる。
ここから絶景を眺めながら黙々進んでいく。
青空の中、本場アルプス版の槍ヶ岳を見ながら気持ちよく進む。
この辺りから九十九折を登る。
2000mを超えてくると風が出てきて、雲行きが怪しくなってくる。
こんな廃墟を横目に進む。
たぶんあの辺のコルにアタックするのだろう。
この辺りから雪がチラつきだす。
2500m付近から足元は雪。
踏み固められ、風も影響してかアイスバーンと化していた。
ツルツルで歩くことも危険・・・
昨夜の悪夢が蘇る。
ストックの先を氷った表面に突き刺しながら進んでいく。
巻き込まれたくもないし、巻き込みたくもないので、周りと距離をあけることにした。
ピーク(コル)Col Entrelorに到着する。(70.039km/3002m)
ピークに到着する頃には、肉体よりも精神的に疲れた。
これから始まる下りセクションもさることながら、Col Entrelorより300mも高い、次のピークCol Losonへの不安が募るのであった。
【Col Entrelor〜Eaux Rousses】
ここから9.132kmで1348mを下る。
下りも想像していたどおりアイスバーンに・・・
ストックを突き刺しながらゆっくり進む。
黄色い簡易式避難小屋?で暖かいコーヒーを頂き、引き続き下る。
標高を下げると雪はなくなり、走りやしいトレイルになる。
次に目指す山が見えてきた・・・
※実際にはこの山のまだ奥に大ボスが隠れていた。
走りやすいが、ウシ達の糞がそこら中にたくさんある。
トレイル上に水たまりがあるから、避けようとすると、糞トラップに引っかかるので、トレイルは踏み外さない方が良いと思う。
樹林帯に入れば下りの終盤。
九十九折を下り、Eaux Roussesのエイドに12時35分到着。
想定時間より5分遅れ。
エイドをすぐに出発しようと思ったが、晴れてきたのでここで時間を取り、マメの消毒と治療、足裏を乾かそうと思い1時間近い休憩を取った。
【Eaux Rousses〜Col Loson】
シワシワの足裏も乾き出発する。
すぐに山の取り付きに入り、九十九折に登っていく。
日本人女性ランナーさんと話しながら進む。ここまでほとんど日本人に出会わなかったため、日本語で話せる喜びを感じた。
話に夢中になり、写真を撮り忘れたが、山がデカく、傾斜がスゴイので、これを登るのかと焦ったが、ある程度登ると山を巻くこととなり一安心。
お、お、大角のだんな〜!かな?
先ほどはこの対面する山から下りてきた。
こんな景色の良いところに私も埋葬していただきたい。
この辺りはゆるい登りが続き、しばらくすると下りに入る。
少し下りフラットなトレイルを進むと、何やらスゴい山が!
よく見たら人が登ってる・・・
この辺りから、結構寝っ転がってる人達を見かける。
九十九折に登って、左の山を巻いていく。
足場は砂利っぽい感じ。
キラキラ光る石がいっぱい転がっている。
上の写真の更に奥にまだこんな山が隠れている。
ここも黙々九十九折に登る。
左の山のあたりかなぁ〜なんて甘い期待をしてみたりする。
振り返るとこんな感じ。
左側にトレースが付いている。
この山と、反対の山の間にあるトレイルを登って来た。
甘い期待は裏切られ、まだまだ続く。
右奥に続く九十九折のトレースが見えるだろうか・・・
この辺りから先がみえない偽コルに心が折れそうになる。
足場が段々と悪くなってくる。
高度計を見ながら、たぶんあのコルだろうと判断する。
3000mを超えると雪が。
夕方なので雪は溶けていたのは助かった。
人がとんがりコーンの奥へ吸い込まれていくのがわかる。
やっとの思いでコース最高地点のCol Loson(89.801km/3299m)到着!
ここでも寒いので立ち止まらずに下りセクションへ。
【Col Loson〜Cogne】
Col LosonからCogneまで12.5kmぐらいを1765mを下る。長い・・・
絶景が広がる。
コースはこの谷の間を下っていく。
振り返るとこんな感じ。
足元は硬く、砂利で滑りやすい。
途中から足に優しいトレイルになる。
Sella小屋が見えてきた。
羊の大群が・・・
Rif.Sella到着。
チェックポイントは必ず中に入ろう。
今さらであるが、チェックポイントを立ち寄らずに失格になった選手もいるので、必ず、紫色のトルデジアンのバナーがあるところは立ち寄ったほうが良い!
ここで、暖かいコーヒーとサラミ、ハム、オレンジを食べ、先を急ぐ。
Sella小屋を出ると陽も傾きかけてきた。
うっすら夕陽が山を照らしだす。
しばらく進むと、Sさんの旦那さんが、コース上で応援してくれていた。
ここからCogneまでの詳細、今後の天候、日本人勢の動向を聞きながら、一緒途中まで進む。
有名どころを除けば、日本人で4位ぐらいですよ〜と言われた。
全然、日本人を見ないことに納得だった。
九十九折のトレイルを下り、街に到着する。
あたりはもう闇に包まれていた。
街に出たらロードとトレイルを交互に繰り返し、次の街が、Cogneであり、結構長いというアドバイスをいただいていた。
確かにロードとトレイルを交互に繰り返し湖?の横を通りながら進む。
21時16分想定タイムより45分遅れで第2ライフベースのCogne(102.14km/1531m)に到着。
30分ぐらい足止めされたのと、積雪の状態を考慮しても、ほぼ想定どおりに進んでいた。
リストバンドを読み取りテント内に入る。すると、NHK取材陣が気づいたのか、カメラを回しながら寄ってこられたので、奥の方に逃げた。
第1ライフベースと違い、待てど暮らせどデポバックを持ってきてくれない・・・(私だけか?)
スタッフにデポバックを欲しいと伝え、数分後に受け取る。
食事をパスし、奥の仮眠室へ向かうこととした。
テントを一旦出て建物を回り込むとそこに仮眠室、シャワー室がある。
とりあえず2時間仮眠することとした。
スタッフに2時間後に起こして欲しい旨伝え、簡易ベッドに横になる。
さすがに2nd stageは、距離が長いことも含め、いろいろあり過ぎたため疲れたており、すぐに就寝できた。
3rd stageは山を1つ越えたら下るだけ。
しかも序盤の1300mのアップのみ。
きっと、ボーナスステージみないなもんだろう。
この時、3rd stageをそんな軽い気持ちで考えていた・・・
2nd stage
距離 53.5km
所要時間 20時間14分 (途中中断含む) LB滞在時間 3時間21分
(3rd stageへ)
前回の1st stage編はこちら
過去の記事はこちら
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